岩波少年文庫の歴史にこぎんあり!

 

 

毎日一度はのぞく地元書店。なんとなく手に取った新刊『岩波少年文庫のあゆみ』(岩波書店)に、のけぞりました。

 

扉写真に並んだ記念すべき創刊時の5冊の装丁がすべて、こぎん模様!

 

 

 

 

    1950年の創刊から1956年まで初期の6年間、岩波少年文庫は赤と青の2種類のこぎん模様で装丁されていたそう。

    早速、古書店で1冊入手しました。ルイス・キャロルの『ふしぎの国のアリス』(昭和30年発行)は、「ベゴ(牛)刺し」の模様です。

 

 

 

 

   手元で観察してみて、手刺しのこぎんを印刷したらしいことが分かりました。

 

 

 

 

大手出版社がなぜ、一地方に伝わるこぎん模様を児童書の装丁に採用したのでしょうか。しかも刊行は敗戦から5年後、地元の津軽地方でも戦争で中断していたこぎん刺し再興がようやく再スタートしたばかりの頃です。

 

 

岩波少年文庫の企画編集をしていたのは、あの石井桃子さんでした。「クマのプーさん」「ちいさなうさこちゃん」の翻訳や、「ノンちゃん雲に乗る」などの作家としても有名ですね。こぎん模様を採用した本当のところは不明のようですが、石井桃子さんが終戦後に宮城県鶯沢で農業生活を送ったことと関係があるのではと、『岩波少年文庫のあゆみ』の編著者、若菜晃子さんがコラム「表紙の模様を解き明かす」で推測されています。とても興味深く、誇らしい気持ちで読みました。

 

 

帯の「太宰治に恋され、」に魅かれて購入した評伝。2014年発行
帯の「太宰治に恋され、」に魅かれて購入した評伝。2014年発行

 

 

こぎんが農民の着物だった時代、こぎんに精を出したのは主に少女たちでした。こぎんの模様には花、トンボ、蝶、猫、牛といった暮らしの側にいた生き物の名前が付いていて、少女たちがいろいろな空想をしながら刺していたであろうことが容易に想像されます。そのような歴史を持つこぎん刺しが、少年少女向けに編まれた世界の名作を包んだという意義を私なりに考えてみて、すとんと胸に落ちました。

 

 

ところで、こぎん刺しの模様が本の装丁に使われること自体は珍しいことではありませんが、その多くが印刷です。手刺しの装丁は数えるほどしかなく、その一つが郷土作家・石坂洋次郎さんの『わが日わが夢』。1974年に愛蔵版として限定450部作られました。こぎん再興の立役者の一人、故工藤得子さんの手刺しで、光沢のあるDMCの刺繍糸が品良く表紙を飾っています。こちらも「ベゴ刺し」。

 

 

 

 

ちなみに、出版当時の価格は2万8000円!

手仕事をされている方なら、納得のお値段でしょうか?

 

 

編集長の鈴木でした。それではまた。