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カルチャー教室でカルチャーショック!

 こぎん刺しをしたことがある人なら、山端さんを知らない人はもういないでしょう。

 グラフィックデザイナーの世界で頭角を現し、名だたる企業から依頼が舞い込む青森県出身のグラフィックデザイナーです。

 彼の特色は何といっても「こぎんデザイン」。

 高校時代に出合った古作こぎんの模様に今なお魅せられ、現代のデザインとして生かす方法を模索し、発信し続けています。

 そんな山端さんのもう一つの顔が「カルチャーセンター講師」です。

 青森のこぎんイベントに彼の生徒さんたち(通称「山端教室」)がよく来ていて、こぎん刺しに並々ならぬ思いを抱いているのを以前から感じていました。

 首都圏でこぎん刺しを広めている山端教室、どうしたらそれほどまで熱量を保てるのか。もしかしたら未来のこぎん刺しが生まれる場所になっているのではないか……?

 そのような予感が私の中にずっとあって、ようやく現場を訪ねる機会を得ました。

 

 ◇◇◇

 そのカルチャーセンターは神奈川県川崎市にあります。

「新百合ケ丘産経学園」。新宿からは小田急線快速でおよそ25分。駅前に隣接しています。

 取材の日は3つの講座が集中して順番に開かれていました。

 こぎん刺しの初心者は「楽しい小物づくり」からスタートしますが、その後はレベルや目的に応じてデザイン講座、研究科へと移っていくことができるそうです。

 カルチャー教室に「研究科」と名の付く講座がかつてあったでしょうか⁉

 さらに言えば、こぎん刺しで「デザイン」と名の付く講座はこれまでなかったと思います。

 手芸教室のイメージを覆す姿がそこにはありました。

 特に研究科は作家として活動する人たちが多く所属していて、プロである山端さんとこぎん刺しの商品開発や商品化後のブラッシュアップ、そして販売の際の宣伝資材についてタブレットを片手に話し合っていました。それはまるで大学のゼミのよう……。

 カルチャーセンターを取材した私の感想を言えば、山端教室の特長は「自由」。

 生徒さん一人ひとりの「楽しみたい」という思いを大切にしていて、発想やアイデアを否定せず、感想や意見を出し合いながら共に成長していくという姿勢が感じられました。

 ただし、山端さん自身には古作こぎんというベースがあり、そのベースはしっかりと生徒さんたちに受け継がれているようです。

 私たちが取材に入るということを知って、作品を持ってきてくださった生徒さんも!

 クリスマスツリーを試作中の佐久間さん。こぎん刺しを立体作品に仕立てたのがとても上手で可愛らしい。

 山端さんの監修で今年12月1日から西目屋村で開かれる「西こぎん展」への出品を考えているそうで、会場で完成品と再会するのが楽しみです!

 山端教室の一期生、関戸さん(写真左)は紗綾形をとことん追究。

 刺すことは講座の仲間、安斎さん(右)に協力してもらい、ご自身は図案に集中しています。

 普段はお仕事もされている関戸さん、刺すことは思い切って他の人に任せるという決断をしたそうです。取材と編集作業中は刺すことを諦めた私は「うん、うん」と、激しくうなずきながらインタビューしました。関戸さんとは今回、こぎん刺しの未来についてもおしゃべりをすることができ、考えを同じくするところがあって胸が熱くなりました。

 画像ではちょっと見えずらいですが、安斎さんが着ているベストは総刺しでカッコよかった!

 山端さんが手にしているのは、受講生の方が作った手提げかばん(すみません、お名前を聞きそびれてしまいたした)。

 これまで刺し貯めたこぎんをパッチワークしたそうです。

 皆さんにもありませんか? 刺しっぱなしの細々としたこぎん。

 パッチワークがあったか!と、とても参考になり、同時に多色を明るくまとめたセンスの良さに目を奪われました。

 ほかにもさまざまに個性が伝わる作品がありましたが、全部をご紹介できないのが残念です(^-^;。

 みなさん、どうもありがとう。

 

 詳細は来年春発行の『そらとぶこぎん』第7号で。首都圏ライターの小畑が詳報させていただきます(下の画像は生徒さんを撮影中の小畑)。

 次の日は都内にある山端さんの事務所へ。

 

 私が山端さんに初めて取材してから10年になりますが、今回が初訪問です。駅から徒歩1~2分という立地の良さ。

 ここでも、こぎん刺しの作家さんたちの個別相談が行われていました。

 お名前だけは私も良く知っている「zizi no ie(じじのいえ)」さんの姿も。

 図案やキットを販売されている「こぎんリース」「こぎんのりんご」を見せてくださいました。作り手に似て、かわいらしいこぎん刺し。

 モドコで作るもの、モドコにはないもの、どちらも今を生きるzizi no ieさんの表現です。

 余談ですが、本好きの私は他人の本棚と蔵書がとても気になります。

 もちろん、事務所でも本棚チェック!

 当たり前ですが、こぎんとデザイン関係の蔵書は公共図書館顔負けのラインナップであることを確かめ、今回の東京出張の締めくくりです。

 

◇◇◇

 津軽から遠く離れた地でこぎん刺しが広まっていく現場の一つを、私自身の思い込みや偏った見方をしないように見聞しました。

 確実に言えることは、図案はもうパソコンで描く時代だということ。山端教室の作家さんたちの多くが、PCを使った図案作成をスキルの一つとしていました。

 私自身はそこまで至っていませんが、図案の種類を比較的たやすく増やせるだけなく、商品化や宣伝のための資材・Webデザインにも取り組みやすくなるのだろうなと想像できます。

 こぎん刺しを取り巻く環境はここ10年で劇的に変化していて、デジタルのスキルを身につけ、自ら宣伝力を備えた作家さんたちがこれからのこぎん刺しを作っていくのだという確信に変わった取材でもありました。

 振り返ってみると、昭和の時代もカリスマ性のある刺し手の女性たちが古作をベースに、今につながるこぎん刺しを作り広めてきたという歴史があります。濃紺と白以外の色を使い始めたこともその一つですね。

 そうした革新性こそ、こぎんの伝統ともいえるかもしれません。

 ただ、そのような状況にあるときに忘れてならないのが、原点を守り大事にしていくということではないでしょうか。

 「あれ? こぎん刺しってどんなだっけ」と迷ったとき、原点回帰の場として地元の津軽があるということ。そのことを改めて考えさせられる取材でもありました。

 ともあれ、山端教室の皆さん、お世話になりました。最後に生徒さんの記念撮影!

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コメント: 2
  • #1

    aomo (月曜日, 31 10月 2022 10:59)

    「原点回帰の場として地元の津軽がある」
    本当にその通りだと思いますし、そうなってほしい!

  • #2

    江原 史子 (火曜日, 01 11月 2022 18:14)

    先日、山端教室の取材でお話し出来て、嬉しかったです。
    また、私が作ったパッチワークの手提げかばんを取り上げて頂き、感激です。
    冊子本を楽しみにしています。