編集長の鈴木です。
コロナ禍で多くの文化活動が中止になり、クラフト系のイベントに足を運ぶ機会もほとんどなくなって飢餓感を覚えています。
そんな中、八戸ポータルミュージアムはっち(八戸市)で2020年11月21日から23日までの3日間、「はちのへ手しごと展」が開かれると聞き、出掛けました。
古作こぎん、南部菱刺しをはじめとする青森の民藝品も展示された会場の様子をリポートします。
同展は、事前予約や入場制限はありませんでしたが、新型コロナの感染予防策が講じられていました。来場者、出展者ともマスクを着け、来場者は会場入口で非接触型の体温測定器で平熱を確認し、手を消毒して入場。出展者のスペースは密にならないように広く区切られ、南部菱刺し、南部裂織、南部花形組子、南部姫毬、八幡馬などの9団体が出展し、作品の展示販売と制作体験が行われていました。それぞれが適切に距離を保ちながら、八戸地域の伝統工芸に親しんでいたようです。
全国のクラフト系の作家さんが参加して毎年秋に開かれていた「はっち市」は、コロナ禍のために今年は中止に。はっち市実行委員会委員長の佐々木良市さんによると、出展者を八戸地域に限定して感染リスクを軽減し、「はちのへ手しごと展」を催すことになったのだそうです。
手しごと展の見どころのひとつだったのが、津軽と南部の民藝展。青森市のつがる工藝店が所蔵する中から100点余りを展示し、もちろん、我らがこぎんと南部菱刺しの逸品もありました。
案内してくださった佐々木良市さんは青森県民芸協会の「友の会」会員でもあり、この日は南部菱刺しの前垂れを締めた素敵ないでたちで来場者を出迎えていました。
前垂れはエプロンのようなものですが、南部地方の女性たちはかつてお祝いの席で身に着けたのだそうです。綿糸で刺すこぎんと異なり、前垂れの菱刺しは毛糸を使います。佐々木さんの前垂れは浅黄色の麻布に、糸は藍と白の2色だけを使った落ち着いた印象ですが、会場に展示されていた昔の前垂れはとてもカラフル。気分が高揚する色づかいです。
こぎんは津軽地方の農村女性の針仕事でしたが、こぎんに勝るとも劣らない男性の手仕事がありました。それが「伊達(だて)げら」です。けらとは蓑のことで、雨や雪をしのぐためのもの。いまの合羽のようなものですね。津軽地方のものは襟から肩にかけて模様が編まれた点に特徴があることから、「織(おり)げら」とも呼ばれ、柳宗悦は「大体北の国々は美しい蓑を作りますが、わけても津軽のは眼を見張らせます」(『手仕事の日本』)と注目しました。
伊達げらは男性が妻になる女性のために作ったもので、材料を吟味し、襟の模様を考え、時間をかけて完成させました。美しいけらをつくる男性は一人前と認められ、女性はそれを着て歩くことを誇らしく思い、雨が降ると大事に仕舞って持ち帰ることもあったそうです。雨除けなのに、です。愛する人が作ってくれた伊達げらですもの。自分は雨に濡れても、という女性の気持ち、共感できます。
男は伊達げら、女はこぎん。互いを想い合って丹精込めて作り、贈り合ったというかつての風習を知ると、ふたつが一緒に継承されてほしかったとつくづく思います。伊達げらの技法が途絶えてしまったことがとても残念です。
他にも陶器の悪戸焼、久慈焼、津軽凧、あけび蔓細工などが展示され、青森県民芸協会の會田秀明会長がギャラリートークで解説してくださいました。
つがる工藝店が南部地方で展示会を開くのは初めてのこと。たくさんの人が訪れるという状況にはありませんでしたが、来場した人たちは先人がうみだした暮らしの道具たちに見入っていました。
佐々木さんは「さまざまな物があふれているけれど、民藝品が暮らしの中にあるとホッと和むんですよ」と言います。それはなぜなのか、會田会長がおっしゃった「民藝品の由来を聞くと、どれにも優しさがある」という言葉にヒントがあるように思いました。
安らぎや癒やしを何に求めるかは人それぞれですが、わたし自身は長く愛着の持てるもの、作り手の考えに共感できるものを見極め、暮らしに取り入れていきたいと思っていて、そうしたものは民藝品に多いようです。
それではまた。
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