小誌編集長の講演「こぎんとともに」が開催されました!

 

弘前在住、編集部の石田です。津軽は雪景色となりましたが、皆さま、どんな師走をお過ごしでしょうか?

 

 

今回は、さる12月11日(土)に行われた小誌編集長・鈴木真枝の講演「こぎんとともに キーパーソンでたどる再興のあゆみ」についてご報告いたします。弘前市立中央公民館さんが主催してくださったもので、市民に生涯学習の機会を提供する「現代セミナーひろさき」の一環として、弘前市民会館で開催されました。

 

登壇する鈴木編集長。約40名が参加しました。
登壇する鈴木編集長。約40名が参加しました。

 

 

最初に「こぎんブーム」についてお話がありました。

 

昨今のこぎんイベントを例に挙げると、令和1年に都内で開催された「こぎんブックマーケット2019」(kogin.netさん主催)は1日(4時間)で約900人が来場。

同年行われた「みんなでつくるこぎん刺しプロジェクト」(弘前市岩木地区の地域おこし協力隊が企画)には、1000枚近くの作品が全国から寄せられました。こうした現象からも、こぎん刺しが注目されていると言えます。

 

書籍の出版状況からこぎんブームを見てみると、第2次手芸ブームと言われる昭和30、40、50年代において、各年代5〜6冊のこぎん刺し本が出版されていました。ちなみに第1次手芸ブームは明治後半〜戦前になるそうです。

 

昭和60年〜平成9年にはこぎん本が10冊ほど出版され、平成7、8年頃に到来した「カワイイ」ブームも影響しているとみられます。平成10年代は6冊。平成20年代、30年以降には第3次手芸ブームが訪れ、こぎん本や雑誌の出版数は各年代20冊以上と大幅に伸びていました(鈴木編集長調べ)。

 

このように現在も人気と言えるこぎん刺しですが、戦前・戦後に再興した方々の尽力があってこそ今があります。そこで今回の講演では、戦前〜昭和の時代にこぎんを復興した人々にスポットが当てられました。

 

 

 

「こぎんの再興と発展には3つの流れがある」と編集長。「産業(民藝)」「手芸(趣味)」「アート」という3つの流れが影響し合ってこぎんは発展してきたとし、各分野で重要な役割を果たした人物についてお話がありました。

 

中でも最も多くの時間を割いて紹介されたのが大川亮さん(明治14〜昭和33)です。現在の青森県平川市の豪農に生まれた大川さんは、こぎん刺しやオリゲラ(雨具)などの農民の手仕事を副業にしようと取り組みました。

 

大正2年に「農事研究会」を組織し、2年後に「農閑工芸研究所」を創設した大川さんは、明治41、42年頃から古作こぎんを収集していたといいます。大正4年、大川さんは、集めたこぎんの一部を東京の「三越呉服店(三越)」に譲ります。当時三越は、呉服店から百貨店へと近代化していくために必要な戦略として「三越流行会」を立ち上げ、自ら流行を作り出していく取り組みをしていたようです。大川さんが三越に譲ったこぎんは、チョッキやバッグなどの商品に加工され販売されました。

 

柳宗悦の民藝運動よりも前の大正期、すでにこぎん刺しが地方の物産品として注目されていたのではないか、と資料を提示しながら解説する編集長。

 

大川さんがなぜこのような取り組みをしたかというと、度重なる飢饉に苦しめられた貧しい農民をなんとか救い出したいと考えたからでした。

 

 

会場には大川亮さんのご遺族からお借りした古作こぎん(右)、オリゲラ(ゆめみるこぎん館蔵)も展示。
会場には大川亮さんのご遺族からお借りした古作こぎん(右)、オリゲラ(ゆめみるこぎん館蔵)も展示。

 

 

大川さんは『工藝』30号(昭和8年)の中で以下のように述べています。

 

「津軽の百姓は、男は編むことと組むこと、女は刺すことを最も得意としている。女の刺したあの美しい『コギン』と『オリハバキ』は、共に津軽が生んだ立派な工藝であり、かつまた誇りである」

 

 

「女性は家族のため、好きな男性のためにこぎんを刺した。その傍らで男性は、家族のため、愛する人のためにケラを織った。大川亮さんはそうした風景を文章としてきちんと私たちに残してくださったんです。こぎん刺しを県外の方にお伝えする時には、こぎんだけでなく、男性にもこうした素晴らしい手仕事があったということをぜひお伝えいただきたいなと思います」と編集長。

 

今回の講演は、大川さんの功績を知る上でも大変有意義なものとなりました。

 

 

そのほか、講演で紹介された主な方々は以下です。

 

「産業」分野

・横島直道さん(明治31〜昭和49):「弘前こぎん研究所」初代所長。

・横島ハルさん(明治40〜昭和60)

・小杉(高橋)寛子さん(大正14〜平成27)※詳しくは小誌創刊号をご参照ください。また、寛子さんに教わったひとりとして佐藤陽子さんがご活躍中です。詳しくは「佐藤陽子こぎん展示館」のHPをご参照ください。

 

・高橋一智さん(明治37〜昭和58)※小誌創刊号をご参照ください。

・相馬貞三さん(明治41〜平成元)※「つがる工芸店」のHPをご参照ください。

・前田セツさん(大正8〜平成7)※小誌第5号をご参照ください。

 

「手芸」分野

・工藤得子さん(大正3〜平成5)

得子さんに教わった人として、故・佐藤はまさん、福田カヨ子さん、鎌田久子さん、間山淑子さんがおります。詳しくは小誌第3号をご参照ください。

・三宅喜久子さん(明治38〜昭和55)

 

「アート」分野

・鎌田光展さん(昭和2〜平成25)

・現役作家として貴田洋子さん(昭和24〜)

 

 

会場には、小誌第5号に掲載した故・前田セツさん寄贈作品も展示されました。

 

左から弘前市民会館蔵、弘前市立中央公民館岩木館蔵、弘前市立中央公民館蔵。手前は大川家所蔵の古作こぎん。
左から弘前市民会館蔵、弘前市立中央公民館岩木館蔵、弘前市立中央公民館蔵。手前は大川家所蔵の古作こぎん。

 

 

また、2021年12月17日付の地元紙・東奥日報さんに講演の様子が掲載されました。誠にありがとうございます。

 

 

 

講演の最後に、編集長が質問に答えるコーナーがありました。

 

「鈴木さんにとって、こぎんとは何ですか?」という質問に対し、「人生を楽しくしてくれるもの。ライフワークです」と編集長。忙しい毎日の中でも、こぎんのことを考えるとワクワクする、といいます。今回の講演は盛りだくさんの内容でしたが、時間の関係で削った内容もかなりあるとのこと、ぜひ今後も講演会、開催してほしいです!

 

 

最後に、ご来場いただいた皆さま、及び企画・運営してくださった弘前市立中央公民館の皆さまに、心より御礼申し上げます。

 

市立中央公民館についてはこちら

http://www.city.hirosaki.aomori.jp/chuokominkan/

 

 

◆お知らせ◆

青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)にて、大川亮さんの貴重なコレクションが公開されます!

「ヴィジョン・オブ・アオモリ特別編『大川亮コレクションー生命を打込む表現』」

2021.12.25(土)〜2022.2.13(日)10:00〜17:00

詳しくはこちら

https://acac-aomori.jp/program/okawa/

 

 

 

これから寒い季節となりますが、皆さまどうぞお元気で!

 

へばまだね〜*

石田