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東京都美術館の展覧会「Everyday Life」で、現代津軽こぎん刺し作家 貴田洋子さんの軌跡を体感

 

 

東京・上野の東京都美術館で開催されている展覧会「Everyday Life:わたしは生まれなおしている」で、弘前市の現代津軽こぎん刺し作家 貴田洋子さん(日展会友、現代工芸美術家協会本会員)の作品が、5人の女性作家の作品とともに展示されています。会期初日の11月17日、貴田さんと一緒に作品を拝見させていただきました。

*弊誌「そらとぶこぎん」第4号の「あなたにとってこぎんとは?」で貴田さんをご紹介しています

 

 

左の作品「色取りの舞」(2009年)は178.7×86.6㌢の大作
左の作品「色取りの舞」(2009年)は178.7×86.6㌢の大作

 

 

1990年代の制作初期の作品から近作まで大作16点がずらりと展示された様子は圧巻です。作品群を目の当たりにした貴田さんは、「こぎん刺し表現の歩みを振り返る大きな機会をいただき、とても感謝しています。多くの方に見ていただければ嬉しいです」と感慨深そうに話していました。

 

 

 同展は「公募展のふるさと」と言われ、多くの全国の作家作品を紹介してきた同館が、公募展を中心に活躍する作家たちを紹介する展覧会シリーズ「上野アーティストプロジェクト」の5回目。身近にある物事や見慣れた風景、取るに足らないと思われてしまいがちな近くにあるものを通じて社会や歴史に目をむけ、見過ごされてきた記憶などを作品に再生させた表現を作り出す女性作家を紹介しています。

 

 

左は初期作品の「雪の精」(1999年、90.2×90.2㌢)。右の「森に生きる」(2005年、88.2×88.2㌢)では八咫烏が登場している
左は初期作品の「雪の精」(1999年、90.2×90.2㌢)。右の「森に生きる」(2005年、88.2×88.2㌢)では八咫烏が登場している

 

 

貴田さんの展示は、絵画的な表現に挑戦し始めた頃のリズミカルな幾何学様模様が印象的な「雪の精」(1999年)を始まりに、貴田作品の“シンボル”である八咫烏が、そして岩木山が現れ、その岩木山の表現が変容する過程を俯瞰できる構成です。

 

 

大鰐町生まれで弘前、青森を経て1985年から首都圏で暮らし、20年ほど美術的な表現を学んだ貴田さんが公募展で初入選した「暮雪の飛翔」(2007年、141.0×334.0㌢)も展示されています。私も初めて実際に拝見しましたが、四曲屏風の作品は存在感が大き過ぎて、「貴田さん以外、こぎん刺しを屏風にしようだなんて、誰が考えつくだろう」と思ってしまいました。

 

 

貴田さんがそれまでに学んだ美術的な表現と、図案を描かずにモドコを自在に連ねる独自の手法で培ってきた技術による緻密にして大胆な作品には、自身の表現を公募展に問おうとする貴田さんの強い意志が感じられました。当時の審査員の皆さんは、この作品を形作るものがひと目ずつ刺した糸だと知った時、さぞ驚かれたのではないでしょうか。

初めて公募展で入選した作品「暮雪の飛翔」
初めて公募展で入選した作品「暮雪の飛翔」

 

 

今回の企画は、貴田さんが2019年12月に弘前に戻り、津軽の空気を肌で感じながら制作し、2020年11月の日展に出品した「津軽のいま・白黒の世界」が、企画担当の学芸員の大内曜さんの目に止まったことがきっかけになったそうです。

 

 

「貴田先生は昔からの奇数律や基礎模様を厳格に守りながら自分にしかできない表現を突き詰め、それまでにないやり方を追求し、開拓されてきました。生活の一部としてこぎんを刺していた過去の方たちと一体化して作品を創っているというか、作品の中で今はいない人達を甦らせることを自然とされているというか。そんな姿勢が展覧会のテーマと響きあうように感じ、出品をお願いしました。作品そのものから手触りを感じ、白と黒の表現の中にもいろんな色、模様が見える面白さがあり、とても惹かれます」。大内さんはそう話してくださいました。

 

2019年に弘前に帰って初めて制作した岩木山の四季を描いた連作
2019年に弘前に帰って初めて制作した岩木山の四季を描いた連作

 

 

作品を見つめる貴田さんは、八咫烏の形の変化や裏模様を用いた部分、通常は裏側で折り返す糸の流れをあえてループ状にして表面で見せた部分など、近寄って細部を確認しながら、それぞれの制作当時を思い出した様子。「自分の足跡を初めて通して見て、大きなチャンスを与えていただいた思いです。弘前に帰ってから毎日見ている岩木山を、自分だけの岩木山の姿として制作していきたいと改めて思いました」と力強くおっしゃる貴田さん。「目も疲れやすくなってきたけど、あと5年は頑張れるかな。まだまだやらなければ」と、制作意欲が増しているようでした。

 

作品に見入るご来場の皆さんは、作品が布と糸によるものだと知って驚く方が多くいらっしゃいました。津軽こぎん刺しの多様な表現の可能性を体感していただける貴重な展示です。ぜひ、会場に足を運び、作品群と各作品の糸の起伏やモドコの連なりなど細部も間近にご覧いただきたいと思いました。

 

 

他に紹介されているのは、画家の桂ゆき、丸木スマ、写真家の常盤とよ子の物故作家と、現役作家の小曽川瑠那(ガラス工芸、岐阜県)、川村紗耶佳(版画、東京)の作品。年代を超え、様々な素材を使ったこちらの作品からも、作家の皆さんの生きる力やしなやかで強い視線を感じました。こちらも、ぜひご覧ください。

 

 

 

☆企画展「Everyday Life:わたしは生まれなおしている」☆

会 期:11月17日(水)〜2022年1月6日(木)

    *12月6日、12月20日〜1月3日は休室

時 間:9:30〜17:30(入室は閉室の30分前まで)

会 場:東京都美術館 ギャラリーA・C

観覧料:一般 500円 / 65歳以上 300円

問い合わせ: TEL 03-3823-6921(代表)

 

https://www.tobikan.jp/exhibition/2021_uenoartistproject.html

 

 

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コメント: 1
  • #1

    坂上和政 (火曜日, 07 12月 2021 09:52)

    '17弘前市立博物館で私が初めて津軽こぎん刺しと出会った作品と思われます。
    近く拝見させて頂きます。